ブログやネット販売の商品紹介のために高価な一眼レフを買っても、自然光環境下だけで撮影するのは勿体無いと思います。ホットシューやシンクロ接点が搭載されたカメラを持っているなら、ストロボ使ったライティング撮影にも挑戦してはいかがでしょうか。
上の画像は筆者が暇つぶしに撮ったものですが、今回はこの画像のように黒い世界でハイライトがビシッと決まった男らしいガジェット撮影のテクニックを紹介したいと思います。
カンタンにまとめると
今回の被写体
Canonのクリップオンストロボ430EXⅡです。今はあまり使ってませんが、発売された当初が懐かしいくらいの老兵です。今回は被写体として頑張ってもらいます。
ハイライトとシャドウがはっきり分かれた絵づくりを目指したいので、被写体になる本体は黒く光沢を生む素材がぴったりです。
セッティングのイメージ
本来は3灯のストロボを使って、被写体の面をそれぞれ照らしたいのですが、そもそも3灯も持っていないよという方向けの手段を紹介したいと思います。
撮影台は箱のような形状のものを積み上げるか、奥行きのある机の上などで構いません。
うちでは自分で作った箱馬を使って高さを出しています。ぜひ参考にしてみてください。

今回はクリップオン1灯だけを使いますが、カメラと商品を全く動かさないという条件で、ハイライトの位置が違う3カットを撮影し、Photoshopで合成します。
画像ではとりあえずトップライトだけを想定したイラストを描いています。
ライトの前にはトレペを一枚入れています。トレペブームとスタンドがあれば上部にドレープできるし保持的にも楽なんですが、左側と右側からも後でライトを入れて行くことを考えると、手持ちで垂らしている方が機材ばかりで足元がガチャガチャするより楽です。
机の色が白もしくは黒でない場合は、被写体を地面からある程度高いところで立たせます。ライティングの際に地面から色を受けてしまうのを避けるためです。
実際の細かい状況は、以下で撮影を説明する際に詳しくお話しします。
必要な機材
プロの現場ではジェネレーターやストロボヘッドと呼ばれる高額な機材を駆使して光を操ります。筆者も普段はジェネレーターを使った撮影がメインですが、光を放つだけなら安いものでも様々手に入れることができます。
今回は手軽にライティングできるようにクリプオンストロボを1灯だけ使った作業を紹介していきます。
それに付随して必要な機材が他にも必要ですが、簡単にまとめてみました。
- カメラ
- 50mm以上のレンズ
- 三脚
- クリップオンストロボ
- トレーシングペーパー
- フラッシュブラケット
- ハニカムグリッド+リフレクター
- ライトスタンド
- シンクロケーブル(ワイヤレストリガー)
- レリーズ(あれば)
カメラ
マニュアル設定ができ、ホットシューもしくはシンクロ接点が搭載されているカメラならなんでも構いません。ライティング撮影に関してはカメラスペックの違いはあまり見た目に反映されません。(1m以上に引き延ばすなら解像度が多少関わってきますが)
極端な話10年前のカメラを使っても最新のカメラを使っても認識できる印象はほぼ同じで、クオリティに物を言うのはライティングとアングル選びです。例えばCanonのkiss X5と言った懐かしい初心者カメラでも何一つ問題ありません。ミラーレスでも上記を満たすものならOKです。
レンズ
物撮りのセオリー通りという事で、だいたい50mm、70mm以上の焦点距離のレンズを用意してください。とは言っても初心者カメラキットにも付いてくる標準レンズで十分です。
歪みが発生するので逆に50mm以下の広角レンズと呼ばれるレンジは避けた方がいいです。
三脚
カメラが止まればなんでもいいです。
2000円のスリックでも全く問題ありません。
クリップオンストロボ
今回の目玉機材です。
本来ジェネレーターを使ったライティングが一般的ですが、昨今はクリップオンストロボでもなんとかなるのでアマチュアカメラマンにはおすすめです。
AmazonをみてもらうとCanonやNikonだけでなく、サードパーティの激安クリップオンストロボがたくさん発売されています。今回用途は極めて単純なので、基本的には光量を調節できて光が飛ばせればなんでも良いので。数千円のストロボが1つ用意できれば十分です。
中でもネットでもっとも評価が高い安価ストロボはNEEWERのTT560です。
背面の操作系統は昔懐かしい感じの機構となっていて、GN38、露出は1/1~1/125までの8段をマニュアル調節でき、スレーブが2回路設定できるだけという超シンプルなストロボです。今回は筆者もこれを実際に購入してみたので、テストがてら試してみたいと思います。
トレーシングペーパー
100均一にはA4サイズが売ってありますが、少し小さすぎるので最低でもA2以上のサイズがあると良いです。
フラッシュブラケット
ストロボの本体をクランプで固定し、スタンドに挿すことができるアイテムです。安いので持ってて損はありません。合成の物撮りはとにかく動かないように、何もかも固定することが肝です。
また以下で説明しますが、リフレクターと呼ばれるアイテムをセットできる構造にもなっており、本来ジェネレーター+ヘッドで運用するような調光技術が安く擬似的に再現できるようになっています。
最近ではS型マウント(ボーエンズマウント)と呼ばれる機構のブラケットが、GODOXをはじめとする安価サードパーティストロボで主流になってきています。規格はなるべく大多数に寄せた方が困りませんのでS型マウントを購入するようにしましょう。
ハニカムグリッド+リフレクター
男らしい硬い光を演出するのには欠かせないアイテムです。
リフレクターとはストロボ発光部の前に装着するお釜のような形をしたアイテムで、これをつけると裸に状態では拡散してしまう光に、一定の方向性を与えることができます。
さらにこのリフレクターの出口にグリッドと呼ばれる網のようなスリットのようなアイテムを装着することで、その光が完全な直進性をもち、被写体に光が当たる面積を大幅に集束させることができます。
目の大きさが度数で表されれていて、40°以下の目の細かいものがかっこよく撮れるのでおすすめです。
説明してもイメージしにくいと思うので、あとは見てものお楽しみという感じです。今回の演出には必須アイテムですよ〜
ライトスタンド
フラッシュブラケットにストロボとリフレクターを装着したユニットを固定しておきます。物撮りには欠かせないアイテムです。ライトスタンド以外にも工夫次第で何かと重宝するので、2~3本は持っておくことをオススメします。
接続先端がオスダボとメスのものがありますが、今回のブラケットにはオス型の安価なものを紹介しておきます。
シンクロケーブル(有線)/ワイヤレストリガー(無線)
これはカメラと離れた場所にあるストロボをリンクさせ、シャッターと同期させるアイテムです。今回のようにストロボがカメラのホットシューと繋がっていない場合は根本的に必要なアイテムとなります。
有線と無線のものがあり、個人的には無線のワイヤレストリガーをオススメします。
今回はストロボを3方向から1つずつ、ハイライトの部分カットを撮影するため、コードがストロボについていると取り回しが非常に悪くなって面倒です。
↑キャノン用です。Nikon用などもあるので注意です。
レリーズ
なくても構いませんが、合成ハイライトを3方向から撮影する際に、シャッターをその都度押していたら微ブレにつながることが予想されます。
10秒タイマーで静かにシャッターを押せばなんとかなるかもしれませんが、レリーズくらいは当たり前に持っておくべきかなとも思うので、一応紹介しておきます。
無線レリーズはセンサーが効かない角度もあるので、有線がおすすめです。
こちらの商品はCanonのものですので、自分の持つカメラのメーカーに合うものを選びましょう。
撮影開始
撮影台の準備
まずは手頃な台の上に被写体を置きます。80cm程度の机の上なら購入したライトスタンドがちょうど良く使えると思います。スタンドは高くなることは得意ですが、机が低すぎると逆に対応できないかもしれません。
机の上に黒い紙を敷くか、ダークな色味の机ならOKです。真っ白な机は光が下から反射してしまい、被写体に広く当たってしまうのでお勧めできません。念のためコップのような透明なもので、地面から被写体との距離をとっています。
ストロボの準備
用意したクリップオンストロボ、ブラケット、リフレクター、グリッドを合体させ、ワイヤレストリガーの受信機を装着させています。
使っているストロボはNEEWERのTT560です。レビューを紹介しておきます。

スタンドに乗せて被写体の高さと同じくらいに調節しておきます。
カメラの準備
100mmのレンズをつけたカメラを三脚に装着。ワイヤレストリガーの発信機をホットシューに装着、レリーズも準備しました。
設定はマニュアルモードでシャッタースピード1/125、F11、ISO100くらいにしておきましょうか。あとで調節していきます。
アングルはお任せしますが、今回のような長方形をイメージさせる被写体は、パースがあまりかかりすぎないように注意です。正面からが無難でしょう。
被写体の位置が決まれば、ピントを合わせてマニュアルフォーカスに切り替えて待機です。
撮影方法/ライティング
左→上→右とストロボとトレペを移動しながら3カットをライティングしていきます。
あとで全く同じポジションで合成することを想定しているので、ライトチェンジの際など、カメラや被写体、机などにぶつかって動いてしまわないように気をつけてください。
左側からのライティング
何はともあれまずは左からライティングします。一旦クリップオンストロボの出力は最小にしておきます。
被写体に対してまっすぐ左の位置にライトを持ってきます。被写体とライトの間に手持ちのトレペを垂らし、シャッターを切ってみます。(片手でトレペ、片手でシャッターなので少し大変です。)
この時明る過ぎれば絞り値をあげるか、ライトを被写体から真横に離しましょう。この時ライトの角度が変わったり、カメラから見て前後に移動してしまわないように注意します。「弱めるためにだけに動かす」というアプローチの意味がなくなるからです。
逆に暗過ぎれば、クリップオンストロボの出力を上げてみましょう。
この作業をじっくり試しながら適正露出を目指します。
上側からのライティング
本当は真上にトレペを屋根のようにドレープさせたかったんですが、かなり手間になるため少し雑めにライティングします。
ライトの首が45°下に向くように調節し、被写体の天面に当たるような高さまでスタンドを上げていきます。トレペもライトを完全に覆うまで高く上げます。
撮影の際レリーズが遠くてやりづらければ、10秒タイマーで撮影するといいです。
何度か試してみて適正露出で撮ることができれば右側に移動します。
右側からのライティング
こちら側に関しては左側面と全く同じ感覚で構いませんが、意図的に左とは違う出力でバランスを変えてみても面白いかもしれませんね。
撮影できたらデータをパソコンに転送しましょう。
Photoshopで合成とレタッチ
レタッチの流れ
- STEP.1撮影データをPhotoshopで開くBridgeから複数の画像をまとめたレイヤーとしてPhotoshopに送ります。
- STEP.2画像を合成するレイヤーモードを変えて3つの画像を合成します。
- STEP.3パスを切る被写体のパスを作り、黒背景に溶け込ませます。
- STEP.4色調補正完成までもう一歩、色調補正を中心に基本的なレタッチを施します。
- STEP.5完成!
STEP1 撮影データを開く
Photoshopで撮影した複数の画像を開く際には、Bridgeから開くと便利です。
まずは試行錯誤しながら撮影したデータの中から、3方向それぞれの画像をピックアップします。ラベルなどをつけておくと確認しやすいでしょう。
ピックアップできたらそれらの画像を全て選択し、メニューバーの中から
ツール→Photoshop→ファイルをPhotoshopレイヤーとして読み込み
とクリックすると自動的にPhotoshopへと転送され、以下の画像のように初めからレイヤーがまとまった状態で展開してくれます。
作業前にレイヤー最下層に黒のベタ塗りレイヤーを作り、全てのレイヤーをグループ化しておきましょう。
STEP2 合成
今回撮影した画像はシャドウとハイライトが明確に分かれているので、レイヤーモード(描画モード/ブレンドモード)の変更で簡単に一つの画像として合成することができます。
合成の方法は簡単です。
3つの素材レイヤーの上から2つを選択し、レイヤーモードを通常からスクリーンに切り替えるだけで、画像のように3方向のハイライトが1枚の画像に馴染ませることができました。
本来の撮影なら3灯使って被写体の3面をライティングするところですが、家でやるにはスペースの問題がありセッティングが非常に邪魔になるので、そのような事情の際はスクリーン合成を使うと簡単に1枚の画像に合成することができます。
スクリーンの効果は光が重なると明るくなっていくような性質ですが、今回のように3枚のうちの各ハイライトが独立し、シャドウとはっきり分かれているので、他の画像の同じ部分と混ざり合うことなく自然に合成することができます。
もしシャドウが十分な暗さを持たず、合成した際に全体が明るくなりすぎるのであればレイヤーモードを比較(明)で試すといいかもしれません。3つの画像を重ねた際にもっとも明るいピクセルを採用してくれる性質のため、ハイライトが混ざり合うことはありません。
STEP3 パスを作成して黒背景へ
今回黒背景というコンセプトですが、別に黒地の布を敷いているわけではありません。
商品撮影のように撮影した被写体のパスをとり、黒ベタ背景の上に乗せるという手段をとりました。背景を垂らす撮影は結構場所を取るので・・
根気よく被写体のアウトラインをなぞっていきます。背景との境界線がなんとかわかるので、モヤモヤっとしてる部分から数ピクセル内側を取るのがセオリーです。
自動選択ツールはどうしても丁寧にライン化してくれないので、不真面目な作業(?)の際にしか使っていません。
パスが取れたらパスのタブで選択範囲を作成、線のぼかしは2pxくらいつけてもいいかもしれません。
選択範囲が取れたら、画像のようにグループレイヤーを選択してマスクを作成します。
このように黒背景の中に落とし込むことができました。
STEP4 色調補正
最後にうまく黒背景に溶け込むようにレタッチしていきます。
と言ってもここからは個人の好きなように、という感覚が主なので簡単な方向性を紹介したいと思います。
今の状態で一番気になる点は、ハイライトのホワイトバランスでしょう。
レンズフィルターで補正をかけてよりガジェットっぽく重みのある感じに整えていきましょう。今の状態は黄色ぽいので補色である青系を当ててやると自然な色味に戻ります。
またハイライト素材がそれぞれレイヤーであることを活かして、不透明度で各ハイライトの露出を調整できることも魅力です。ちょうどいい露出に落とし込んでみてください。


コントラストも多少強めに加えてやることにしました。
トーンカーブを使って、黒が重すぎず、ハイライトが眩しすぎない、かつ重厚感のあるポイントを狙っていきます。落とし所の感覚は慣れです。
ほんとは作業前がセオリーですが、目立つゴミがあればこの段階でも取っておきましょう。新規レイヤーを最上層に作って自動修復ブラシなら画面上部の「全レイヤーを対象」にチェックを入れると反応してくれます。こうすると統合しなくていいので楽です。
完成
最終的にこのような絵作りになりました。
レタッチ前との比較も載せておきます。


いかがでしょうか?機材やライトが少なくても、このような手法なら角ばったガジェットには相性良く、3面に対してアプローチした写真を撮ることができます。
多少広いスペースがある方なら、クリップオンストロボでも3灯ライティングは可能ですのでぜひ試してみてください。
ライティング撮影の肝は主に、ライトの強さ、ライトの向き、ライトと被写体の距離、トレペの位置、リフレクターやディフューザーの種類などが挙げられます。
これらの要素を色々組み合わせて、被写体に対してアプローチするのがライティング撮影の面白さです。
今回ライトの向きは全て被写体に対してまっすぐ当てますが、プロの現場では意図的に離したり近づけたり、被写体の端っこをかすらせるような角度だったりと、目指す絵作りに近づけるために思いもよらぬアプローチでライトを照射します。
特に今回のようにグリッドをつけているとライト1cmが動いただけで、撮影した見た目が大きく変化します。いずれ自分で試してみるのも面白いかもしれませんね。
いいカメラを持っていても世の中にちょうどいいノウハウが無いために、ライティング撮影に苦手意識をもつアマチュアの方々はたくさんいらっしゃるみたいです。道具は要りますが仕組み的には結構シンプルで、意外と簡単に素人とは思えない写真が撮れてしまう事に気がついてもらえると嬉しいです。
コメントを残す